法、とくに刑法は、人間社会が安定するための最低限のルールです。刑法とは、古今東西を問わず、人間社会に必要な普遍的な決まりごとなのです。古代メソポタミアのかの有名なハムラビ法典もまた、基本的には刑法でした。
しばしば、法と倫理・道徳は一致しないと言われますが、刑法に関しては、最低限の倫理・道徳を表現したものと言えるかもしれません。いわば、刑法は、倫理・道徳の中に包摂されているのです。法の領域を超えた良き行為や生き方については、また別の教え方はあるのでしょうが、少なくとも、刑法こそ人間社会の基礎の基礎なのです。
もしかすると、道徳の時間に法についても一緒に教えるようにすればよいかも、とまあちゃまは、思うのです。
安心できる社会とは、しばしば、政治の目的としても挙げられます。しかしながら、政治は、直接的には、治安を良くすることはできないのです。
政治ができることは、治安の維持のための予算を増やしたり、外国から犯罪者が流入することを防いだり、より効果的な制度を考案したりすることです。もちろん、政治圧力で警察の捜査をやめさせる、などということは、もっての外です。治安の良し悪しは、実のことろ、警察組織とその能力にかかっているのです。
安心できる社会とは、本当は、国民から信頼される警察の組織を築き、効果的に犯罪を取り締まれることによって実現するのね、とまあちゃまは、思うのです。
悪いことであると知っていて、その行いをすると、それは、その人自身の責任となります。
しばしば、悪いと知っていながら犯罪を行いながら、自分の責任ではなく、他の人や、社会に責任転嫁をする人を見かけます。しかしながら、やはり、刑法に違反することを知っている以上、行為者は、その責任を逃れることができないのです。ｌ
少なくとも、何が刑法に触れるのかは、社会の構成員の全員が知っていなくてはならないのね、とまあちゃまは、思いました。
狼少女は、小さい時に狼に育てられたとしても、人間に教育されることによって、人間社会で生きてゆくことができるようになるかもしれません。それでは、次のような場合には、誰が悪いのでしょうか？
狼少女は、周囲の人々の献身的な教育の甲斐あって、何をしたら罪になり、何をしたら他者を傷つけることになるのか、理解することができるようになりました。ところがある時、悪い犯罪者の一味に誘われて、強盗事件を起こしてしまいました。この場合、狼少女に罪はあるのでしょうか？教育を受け、ルールを知っているにもかかわらず、犯罪に加担してしまった場合には、狼少女には罪がある、ということになりましょう。残念ながら、この場合には、分かっていながら犯罪を行った”確信犯”になっていまうのです。
犯罪に誘われても、狼少女さんは、Noと言わなければならなかったのね、とまあちゃまは、狼少女さんにがっかりするのでした。
狼少女は、教育の甲斐もなく、人間社会で生きることができなかった、というストーリーは、あまりに悲しい展開です。でも、こうした展開にならない可能性もあります。
それは、狼少女には、学習能力や理解力があって、普通よりは少し遅れるけれども、人間社会のルールを身につけることができた、というストーリーです。この場合ですと、狼少女は、他者を傷つけることが悪いことであることをよく理解しましたので、もはや、他者に咬みついたりはしません。自分のこれまでの行動を反省することもできます。この状態に至りますと、狼少女は、人間社会で生きてゆくことができるのです。
狼少女さん、よかったですね、とまあちゃまは、ひとまずは安心するのでした。
それでは、”狼少女”が教育を受けた場合には、どうなるのでしょうか。この場合に、”狼少女”の行く末には、二つの仮説が想定できます。
その一つは、”狼少女”は、脳の発達段階の重要な時期に、適切な教育や周りからの刺激を受けなかったために、人間社会のルールを学びとることができなかった、という悲しい仮説です。この場合、”狼少女”は、罪の意識を感じることなく、何度でも同じ犯罪を繰り返してしまいますので、危険な人物として、一生牢屋に閉じ込められてしまうかもしれません。かわいそう、といって外に出してしまいますと、無関係な他者に危害を加えてしまいますので、他に選択の余地がなくなってしまうのです。
”狼少女さん、かわいそうだけれども、仕方がないのね”とまあちゃまは、さびしそうにうなずくのでした。
ある事件が発生した場合、誰が悪くて、どこに原因があるのかを探すことは、そう簡単なことではありません。それでは、以下のケースはどうでしょうか？
例えば、狼に育てられた”狼少女”がいたとします。この”狼少女”は、”狼”に育てられたのですから、社会のルールや決まりごとを知りません。何が、罪にあたいし、悪いことなのか、わからないのです。こうした”狼少女”が、いきなり人間社会に戻されて、他人に咬みつく、といった殺傷事件を起こしたとします。この場合、確かに、この行為は、刑法上の罪に値するのですが、”狼少女”だけが全面的に悪いのでしょうか？罪に相当する刑には服さなくてはならないにしても、”狼少女”を森に捨てた親も悪い！という議論にはなりそうです。
この”狼少女”は、それからどうなるのかしら？と、まあちゃまは、次の展開に興味津々です。
人間とは、自分に非があるとか、自分が悪かったとは認めたがらないものです。何かと理由をつけて、自分を守り、責任を他者に転嫁したがるものなのです。
その結果、本当に悪い行いをした人までが、”自分こそが犠牲者！”と言い張る始末です。そこで、本当の悪が何処にあるのか、本当は誰が悪いのか、を見抜くには、洞察力が必要となります。こうした洞察力がないと、どんなひどい事件が起きても、すべてが”他人のせい”であって”すべての人が犠牲者”になってしまうのです。
世の中がきちんと成り立つためには、洞察力が必要なのね、とまあちゃまは、思うのです。
わがままに育った人が増えると、社会は、どうなるのでしょうか？”自分は何も悪くない！悪いのは、すべて他人！”と思い込んでいる人が増えるのですから、もちろん、人間関係がぎくしゃくしてしまいますし、社会秩序も壊されてしまいます。
何か事件が起こるたびに、犯人すら”自分は悪くない！”と叫ぶのですから、これには、困ったことです。実際に、法廷でもこうしたシーンはよく見られるようになりました。そうして、中には、こうした主張こそ正しいと同調する人々も現われてくるのです。これでは、世の中から善悪の区別もなくなってしまうかもしれません。
わがままな人の自分勝手な行動の自己正当化を許してしまうと、社会は、どんどん崩れてゆくのね、とまあちゃまは、恐ろしく思うのでした。
