世に憂うこと、心に留まること、多かりしことは、今も昔もかはらざりければ、人の日記つづりたるも、ゆゑなきことにはあらざるなり。心に思ひありくことをば、心のままに書き連ねたること、いと恥ずかしきことなれど、世のことわりに違ひ、よろしげなことの過ぎたる様の悪しければ、心に覚ゆること書き置き、人の心にたねをまきつれば、末の世には、あるいは実もなさむと思ひて、今日より、日記をはじめぬるなり。心をすまし、あけき心をもちて世をながむれば、まことの道によらんむこともあるべし。さては、日記なるもの、かひなきものと思へども、まずは、文机にむかひて書をしたためむとすれど、今の世のことども、昔の文字様ではえ書き出でず。しからば、明日よりは、今様の言の葉にて書きつまむと思ふ。